インテリハーモニー

クレヨンしんちゃんの風間くんと全く同じ服装のおばさんが、めちゃくちゃデカいビーダマンから発射されながら、法廷に姿を現した。グルグルと回転し、ほぎゃ、ほぎゃ、と赤ちゃんの泣き真似のような声を出しながら、空中で尻を振っていた。

何度も地面に叩きつけられたあと、クレヨンしんちゃんの風間くんと全く同じ服装のおばさん(以下便宜上、風間と呼ぶ)は手錠の鍵穴の部分に口を付け、ブーーーーッッ!!と吹いた。鍵穴にはルージュの紅がべっとりと付いていた。風間の髪型は風間くんとは全く似ておらず、一時期のICONIQのような坊主だった。風間は太っていた。

 

今日の裁判は荒れそうだ。

 

( ・´ー・`)

 

立ち上がった風間が、ドヤ顔で私を睨みつけてきた。坊主頭からは血が滲んでいた。よく見ると、顔自体はICONIQとは似ても似つかなかった。一重瞼で、ボヤっとした輪郭。風間はブスだった。

マサオくん。風間の坊主頭はマサオくんを揶揄していたのではないか。そこを怪我することで、心の中のマサオくんを捨てた。弱虫な感情は要らない、自分は本気だぞ、と。風間はそう言いたいのだろうと、ハッと気付かされた。

ICONIQに一瞬でも喩えた自分が恥ずかしかった。ごめんなチャイコフスキー。私は心の中で、脳みそ夫の謝り方をした。ICONIQは嫌いじゃないが、ICONIQに真面目に謝罪するのは癪だった。

 

「ちぇいちぇいちぇいちぇいちぇいちぇい!!」

 

風間を威圧するため、私は自分の前の空間を何回もパンチした。メラメラパンチだ。傍聴席からは、(パンチ)多過ぎィ!という声が聞こえた。私は係の人に頼んで、そいつから1万円を没収させた。厳正な司法の場では、おふざけは許されないのだ。

1万円を没収された男は号泣しながら、立ち上がり、コマネチを何回かしたあと、着ていたシャツのBad Boyのキャラをボコボコに殴って、直立したまま死んだ。香水のいい匂いがした。

 

「原告、前へ」

 

裁判長の声のあと、風間は足を一切動かさず、ホバー移動で証言台に近付いていった。原告、という言葉に私は耳を疑った。絶対に風間が何か犯罪をしたのだろう、と確信していた。風間は誰かを、訴えた立場だった。誰を?

 

「イ~~~ッヒッヒッヒッヒ!!!」

 

イ~~~ッヒッヒッヒッヒと言いながら、先ほどのクソでかいビーダマンが入ってきた。こいつが被告らしかった。ビーダマンが喋るのも、イ~~~ッヒッヒッヒッヒと喋るのも、私は初めて知った。風間はビーダマンを恨めしそうに見るでもなく、ゲームをしていた。メイドインワリオだった。面白いよね。

 

「静粛に^^;裁判始めますよ^^;」

 

アセアセ、と小声で言いながら、裁判長が裁判をスタートさせた。前々から気持ち悪いなとは思っていた。あなた、この法廷で浮いてますよ。そう言ってやりたかった。

クソでかいビーダマンが風間をレイプしたらしかった。裁判員制度で選ばれた私に、この難事件を解決できるだろうか。解決した。懲役1年半。私はハイタッチした。裁判のあと、私は松屋に行った。牛丼を食べた後、紅茶を飲んだ。春の訪れが近付いていた。