今度のマリオは謎球(なぞだま)だ

夕方5時を過ぎ、スーパーマーケットのパック刺身に割引シールが貼られ始めた。

 

「ア、アワワワヮワァアァァ〜〜!!!!!」

 

クソでかい声をあげながら、マリオ(普段我々が見るマリオより心なしか歯茎が出ている)は腰を抜かし鮮魚コーナーの床に尻餅をついた。かなり大きいバブリシャスがその場を横切った。タケシ(ポケモンのニビシティのタケシ)がジッと見ていた。んぐっ、とタケシの喉が蠕動し、ぬろ…と口から殻が付いたままの卵を吐き出した。『このスーパーは只今より…万引きを正式に!!禁止しますッッッッッッッッッ』というアナウンスが“今”流れた。

 

「オオオオオオウ……ハ、ハワワ…」

 

つい先ほど、マリオはシールが貼られる前のイカの刺身をカゴに入れたばかりだった。798円が399円になるってこと?信じたくなかった。金を多く払うのが辛いわけではなかった。自分が買った798円のイカ刺しが399円だと“認識できてしまう”のが恐ろしくて仕方なかった。両肩にカメックスと同じ大砲を付けたロザン宇治原が近づいて来た。中腰になり、「ハイドロポンプ!やぁぁあーーーっ!!!」と叫んだあと、動かなくなった。腹の部分に“人肉を糧にして成長する鉄球”が急に発現し、宇治原を内側から食い破り、宇治原と同じ体積の鉄球になり、ゴロゴロ…と転がり始めた。鉄球はマリオ(普段我々が見るマリオより心なしか歯茎が出ている)の方へと徐々に距離を詰めていった。

 

「困りましたね」

 

マリオは鉄球の方を向き、困りましたね、と言った。手旗信号で「あのね でもね ただ キイテ キイテ キイテ…」ともらい泣きの歌詞を表現した。『ぐっ……!!!!!』スーパーのアナウンスから、感激した泣き声が漏れ聞こえた。印象に残るシーンだ。鉄球(先ほど伝え忘れていたが、一休(い↑っきゅ↓う)と同じイントネーション)は何食わぬ顔で近づき続けた。鉄球(て↑っきゅ↓う)は、一青窈の曲は『江戸ポルカ』しか知らなかった。

 

江戸ポルカ

 

鉄球は止まった。知っている一青窈の曲をマリオが口にしたから止まった。少し浮き、また床に降りた。スーパーの店員が、半額のシールを鉄球の上面に貼り付けた。黒い鉄球の表面に、半額シールの警告色が良く映えた。半額の鉄球は心なしか嬉しそうだった。マリオは日本刀で真っ二つに斬られていた。タケシが思い立ったように踵を返して店の外に出て、また店の中に入ってきた。店に入る際、かなり大きいバブリシャスとすれ違った。