ダブルマシンガン

目から鱗だった。

鱗を落としながら私は、イカ天瀬戸内れもん味を食べた。美味しいけど、みんなが言うほどじゃないかな、と思った。手がベタついた。次からはティッシュで拭こう、と堅く誓った。嘘。堅くは誓わなかった。

 

「2段ジャンプが出来るキャラは、2段階で転べるのかな」

 

私に鱗を落とさせながら、彼はアボカドを丸かじりした。アボカドとイカ天瀬戸内れもん味、彼はじゃんけんでアボカドを選んだ。どっちもどっちだからね、と言っていた。どっちもどっちなんだ、と私は思った。彼が言うことはいつも正しい気がした。

 

「それって、転びながら転ぶってこと?」

 

私の発言は無視された。アボカドを食べながら彼は、ウワーーッ、と何度か叫んだ。理由は分からなかった。遠くから祭囃子が聞こえた。あとで知ったが、別に祭は開催されていなかった。

 

「て、て、TVを見るときは〜、っと」

 

こち亀のオープニングの真似をしながら、彼はTVを付けた。全然面白くなかった。怒りで我を忘れそうになった。自分の内腿を思いきりつねって、必死で堪えた。馬鹿みたいに内出血した。紫とかを通り越して、黄緑になった。自分じゃなくて、物に当たり散らせばよかったと後悔した。

 

『NA,KA,TA!NAKATA!NA,KA,TA!NAKATA!』

 

パーフェクトヒューマンが流れていた。オリラジの中田さんが、ダンサーと、数十人の園児たちと一緒に踊っていた。そういう企画らしかった。ワイプでは、知らないババアが踊っていた。私が無知とかではなく、本当に芸能人でもなんでもない、知らないババアだった。

 

「完璧な人間なら、2段階で転ぶなんて、お手の物なんじゃない」

 

私の発言は無視された。私が尊敬する彼はもういなかった。死ね、と心の中で呟いた。TVを見ていた彼が私の方を向いて、「こっちの台詞だよ」と目を見開いて言ってきた。ブス、とも言われた。私はわんわん泣いた。画面の中では、幼稚園が燃えていた。誰も気付いていなかった。

 

「こちら葛飾区何とかかんとか」

 

彼はこち亀の正式名称を覚えていなかった。私の心はぐちゃぐちゃにされた。でも恋ってこういうものなのかな、という気もした。彼は、またウワーーッと叫んだ。私もウワーーッと叫んだ。疑いようもなくLOVEだった。パーフェクトヒューマンが流れ終わった。ワイプの知らないババアはまだ踊り続けていた。