有限会社ドキ☆ムネ

「課長。話ってなんでしょうか」

「おお、武藤くん。ま、とりあえず座ってよ」

「もう座ってます」

「もう座ってるんだ。少し話があってね」

「“座りながら座る”ってことでしょうか」

「もう座ってるなら、大丈夫だよ」

「座(ざ)の2乗」

「続けるね。先日のプレゼンテーション、ご苦労様」

「それ、部下とかに使う表現ですよ」

「うん、だから使った。嫌だった?」

「お茶飲んで良いすか」

「いいよ。プレゼンの内容、好評でね」

「(グビ…)」

「クライアントも武藤くんに感謝していたよ」

「(グ)それは光栄です(ビ…)」

「器用だね。社内でも、武藤くんを評価する流れになっている」

「おかしいだろ」

「おかしくないよ。大口クライアントだからね」

「どっかで聞いたような話ですね」

「君の話だからね。それで、社内でも」

 

(武藤、課長の喉元にナイフを突き立てる)

 

「評価する流れでしょ、さっき聞きました」

「はい…」

「殺すぞ」

「殺さないで…」

「殺すぞ!」

「殺さないで下さい…」

 

(武藤、席に戻る)

 

「すみません、気が動転しちゃって」

「良いんだよ、ミスは誰にでもある」

「どういう意味ですかそれ?」

「君には次も、大きな仕事を任せたくてね」

「お茶飲んで良いすか」

「いいよ。この部屋、乾燥してるね」

「チッ…」

「ごめんて。大口クライアント専門の、新しいチームを作ることになったんだ」

「いつからですか?」

「えーと、再来月だったかな」

「あやふやな事を言うな」

「すみません…」

「千切るぞ」

「千切らないで下さい…」

「(グビ…)プハ〜!生き返る!」

「3口目でそれ言うんだ。それで、今日の本題なんだけど」

「あ、ちょっと待って下さい」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

「何?武藤くんに是非、チームリーダーをやってほしい」

「異例の人事ですね」

「君は若いが実力がある。期待の表れだよ」

「イレジン」

「うん」

「イレジンストリーム」

「気に入ってる?悪い話じゃないと思うよ」

「良いか悪いかは僕が決めます」

「そうだね、ごめん」

「そんな顔しないで下さいよ!(バンッ)」

「痛っ。変な顔してたかな?」

「お茶飲んで良いすか」

「糖尿?大事な話だし、すぐ返事をくれとは言わないよ」

「今言ったじゃないですか」

「ん?今?」

「お受けしますが条件があります。再来月と言わずそのチーム、今日から動きましょう。善は急げです」

「頼もしい。流石は武藤くん」

「武藤、って呼んで…?」

「武藤…」

「武藤くんって呼んで下さい」

「何なんだよ。チームメンバーは君に一任する」

「どうしてですか?」

「君の自由な発想を、上も期待してるんだ」

「え?ど、どういう事です?え?」

「何で急に物分かりが悪くなるんだよ」

「(死んで生き返る)」

「器用だね。じゃあ今日から頼むよ、武藤リーダー」

「実は、メンバーはもう決めてるんです」

「そうなんだ、誰?」

 

(武藤、立ち上がり課長に手を伸ばす)」

 

「武藤くん…」

「武藤って呼んで?」

「うっさいな…」

 

(課長、武藤と握手をする)

 

「ふふ…」

「課長。僕、

 

 

 

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“わたパチのパッケージに載ってる紫のやつら全員”と革命を起こします。では」

 

(武藤、アッザーース!と野球部みたいな礼を言って部屋を出る)

 

「…」

 

(課長、握手した手を握ったり開いたりする)

 

「武藤くん…」

 

「しゅき…」

 

(おわり)

 

 

聖母志村

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手紙が届いていた。

 

『そっちがその気なら、あたすにもあたすの考えがあります』

 

私は手紙を閉じた。テーブルの周りを小走りで2周半したあと、「きゃああああああ!!!」と叫び、目を薄くしながら紙の端を指でつまみ、恐る恐るもう一度手紙を開いた。

 

『そっちがその気なら、あたすにもあたすの考えがあります』

 

「きゃああああああぁああ!!!!!!」

 

私は手紙を閉じた。怖すぎる。手紙の主は明らかだった。志村だ。志村けんが私に、何かしらの声明をしてきている。

両手を身体につけピーンと背筋を伸ばし、TVか何かで見た部族の踊りよろしくその場でピョンピョンと跳ねながら、「らめぇ〜〜〜!!」とエロ漫画でしか言わない喘ぎ声を出した。洗面台に行き、水を出し、水を止め、ビートたけしの走り方でテーブルに駆け戻り、今度は勢いよく手紙を開いた。

 

『そっちがその気なら、あたすにもあたすの考えがあります』

 

「きゃらめええええぇええええええ!!!!」

 

テーブルの前で足をガクガクと震わせて、あいみょんマリーゴールドをうろ覚えで歌いながら、自分の顔面をボコボコに殴った。この悪夢が1秒でも早く醒めてほしかった。

 

『そっちがその気なら、あたすにもあたすの考えがあります』

 

殺される。私はそう直感した。

 

私が何かした覚えはなかったが、そんな事は問題じゃなかった。大事なのは、“志村がどう思ったか”だからだ。残された時間は、もう長くない。

 

「ひっ!ひっ!ひっ!ひっ!ひっ!」

 

意味もなく左右を見渡した。すぐそこまでS(志村)が迫って来ている気がした。S、見ているのか。私の焦りを見て、ほくそ笑んでいるのか。

私は頭上で両手で丸を作りながらあぐらをかき、宙に浮いた。シェーを左右交互に超高速で行うと、残像でこのように見える。どうだ、S、いや、志村。お前なんか怖くないぞ。

 

時間にして10分ほど「浮いているように見える高速シェー」を続けたあと、私は真顔で立ち止まった。止めよう。Sの機嫌を損ねたら、どんな惨い目に遭うか分からない。改めてテーブルに目をやると、手紙はどこかに姿を消し、食べかけのトーストが凍っていた。

 

終わりだ。

 

どうやら最後の刻(とき)が近づいてきたらしい。私は全裸になり洗濯機のスイッチを入れ、飛び込み、毛布コース(一番時間がかかるやつ)で念入りに身体を洗われた後、スヤァ…と1時間ほど寝て、スーパーマンみたいに洗濯機から飛び出ようとして、蓋に弾かれてもう一度洗濯機の中に落下した。

 

お母さんにLINEを送ろう。

 

5月12日は母の日。みなさん、お母さんに感謝の言葉、伝えてはりますか?

一緒に洗濯機に入れて粉々になったスマートフォンを起動し、母への最期のLINEを送った。頭上を見ると、今にも鎧を着たS(志村。芸人の志村けんさん)が穴(斧の誤字)を振り上げているところだった。お母さん、今までありがとう…。

 

 

 

 

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留年中にマジで思っていた19の事と、卒業後に思った1の事

◆留年中

 

1.留年は楽しい

 

2.留年すると経験値が高まる

 

3.留年すると勉強できない人の気持ちが分かる

 

4.留年した方が時間をふんだんに使える

 

5.ストレートで進学した方が逆にキツかった

 

6.留年ネタでウケを取れるのは楽しい

 

7.留年するとアンニュイな感じが出てモテる

 

8.留年すると多角的な物の見方ができる

 

9.留年を考えもしない人は可哀想

 

10.留年は自分を省みる良い機会になる

 

11.勉強したら進学できたが敢えて留年した

 

12.留年すると余計なプライドを捨てられる

 

13.留年する事で改めて親に感謝できる

 

14.悪い留年もあるが、俺のは良い留年

 

15.留年すると勉強以外の知識も深まる

 

16.変に留学するよりは留年の方が有意義

 

17.誰かが留年するなら俺がやる

 

18.単位を取るためじゃなくて自分のために勉強してるから時間がかかっても問題ない

 

19.留年して反省する事もあるが後悔はしない

 

 

 

 

◆卒業後

 

20.ああ゛あぁあああ゛゛゛ぁぁ゛ああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー普通に勉強しとけばよかったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぎいいいいいいぃいいいいいいいいいいぃいいーーーーーーーーーー1留はまだしも2回も留年すんなあぁあぁあああぁーーーーーーーーーーあああぁああああああぁあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ!!!!!ぐぇぐぇぐぇぐぇぐぇぐぇぐぇぐぇぐぇぐぇ!!!!!!ぴゃーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!!

 

あああぁあああああぁああああああぁああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

 

(おわり)

スーパー無常1-1

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「ライライライラライライラライ!」

「ライライライラライライラライ!」

 

FUJIWARA原西のギャグを叫びながら、男女は極めて楽しそうに何かを振り回していた。

偶然ハイスピードカメラで撮影したので、録画を止めた後、机の下でその何かを見てみた。小太鼓を叩くためのバチで、先端に「TENGA」と彫られていた。

 

私の挙式は、見ず知らずの3人組に完全に占拠された。

 

中央の男がスゥ、と息を吸い、ヒンズースクワットをしながら手で十字を切り、サイタマサイタマサイタマ…と言い“ながら”、私たちにゆっくりと話し始めた。

 

「え〜〜皆さん。スーパーマリオのキラー。ご存知でしょう。彼には豊かな表情がありません。貼り付いたようにニヤリとしながら、それなりのスピードで、マリオに突っ込むばかりであります。私(ワタクシ)には彼の気持ち、よぉくよぉく分かります。アレはね、“恐怖”なんです。自らの役割と、運命から、逃げられない。マリオに当たって死ぬか、避けられて、情報を永遠に彷徨うか。そうなった時、人ってね、キラーってね。笑うしかできないんですよ。悲しい悲しい表情なんです。申し遅れました、私(ワタクシ)、スムージー 光(すむーじー ひかる)と申します。申しました。誰かがね、誰かがキラーの無念を晴らさないといけないんです。そのために私達(ワタクシたち)、徒党を組みました。先ほどSNSで出会いました。チーム名をドラキュラ(どらきゅら)と申します。え゛ぇんっ!!失礼、少しガムを噛ませてください。ぱくりんちょ。

 

 

くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ

 

 

噛みました、続けます。噛んだガムはどうしたって?飲み込んでなんかいませんよ。“噛んだから、もう終わり”です。こいつも役目を終えたんです。キラーの代わりに、無念を背負ってくれたんです。勇敢だとは思いませんか。勇敢とは、思わんかァァァァァアァァァッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

スムージーは叫んだあと、水泳の蹴伸びのように両手を突き出したまま、私達のウェディングケーキに向かって走り始めた。表情は完全に、キラーそのものだった。誰かがこの悲しみを止めないといけなかった。

 

助けよう。式はまた、やり直せばいいじゃないか。目の前にいるこの男を助けなくて、何が幸せか。なあ、そうだろう。左にいる妻の方を勢いよく向いた。

 

「あぁあ〜〜〜〜〜〜♡♡」

 

普通に気持ちよさそうにおしっこをしていた。おしっこをするなよと思った。

穴埋め道中膝栗毛

 

 

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F

A

X

 

 

 

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令和は果たして、どんな時代になるでしょうか…

 

 

 

 

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(おわり)

インテリハーモニー

クレヨンしんちゃんの風間くんと全く同じ服装のおばさんが、めちゃくちゃデカいビーダマンから発射されながら、法廷に姿を現した。グルグルと回転し、ほぎゃ、ほぎゃ、と赤ちゃんの泣き真似のような声を出しながら、空中で尻を振っていた。

何度も地面に叩きつけられたあと、クレヨンしんちゃんの風間くんと全く同じ服装のおばさん(以下便宜上、風間と呼ぶ)は手錠の鍵穴の部分に口を付け、ブーーーーッッ!!と吹いた。鍵穴にはルージュの紅がべっとりと付いていた。風間の髪型は風間くんとは全く似ておらず、一時期のICONIQのような坊主だった。風間は太っていた。

 

今日の裁判は荒れそうだ。

 

( ・´ー・`)

 

立ち上がった風間が、ドヤ顔で私を睨みつけてきた。坊主頭からは血が滲んでいた。よく見ると、顔自体はICONIQとは似ても似つかなかった。一重瞼で、ボヤっとした輪郭。風間はブスだった。

マサオくん。風間の坊主頭はマサオくんを揶揄していたのではないか。そこを怪我することで、心の中のマサオくんを捨てた。弱虫な感情は要らない、自分は本気だぞ、と。風間はそう言いたいのだろうと、ハッと気付かされた。

ICONIQに一瞬でも喩えた自分が恥ずかしかった。ごめんなチャイコフスキー。私は心の中で、脳みそ夫の謝り方をした。ICONIQは嫌いじゃないが、ICONIQに真面目に謝罪するのは癪だった。

 

「ちぇいちぇいちぇいちぇいちぇいちぇい!!」

 

風間を威圧するため、私は自分の前の空間を何回もパンチした。メラメラパンチだ。傍聴席からは、(パンチ)多過ぎィ!という声が聞こえた。私は係の人に頼んで、そいつから1万円を没収させた。厳正な司法の場では、おふざけは許されないのだ。

1万円を没収された男は号泣しながら、立ち上がり、コマネチを何回かしたあと、着ていたシャツのBad Boyのキャラをボコボコに殴って、直立したまま死んだ。香水のいい匂いがした。

 

「原告、前へ」

 

裁判長の声のあと、風間は足を一切動かさず、ホバー移動で証言台に近付いていった。原告、という言葉に私は耳を疑った。絶対に風間が何か犯罪をしたのだろう、と確信していた。風間は誰かを、訴えた立場だった。誰を?

 

「イ~~~ッヒッヒッヒッヒ!!!」

 

イ~~~ッヒッヒッヒッヒと言いながら、先ほどのクソでかいビーダマンが入ってきた。こいつが被告らしかった。ビーダマンが喋るのも、イ~~~ッヒッヒッヒッヒと喋るのも、私は初めて知った。風間はビーダマンを恨めしそうに見るでもなく、ゲームをしていた。メイドインワリオだった。面白いよね。

 

「静粛に^^;裁判始めますよ^^;」

 

アセアセ、と小声で言いながら、裁判長が裁判をスタートさせた。前々から気持ち悪いなとは思っていた。あなた、この法廷で浮いてますよ。そう言ってやりたかった。

クソでかいビーダマンが風間をレイプしたらしかった。裁判員制度で選ばれた私に、この難事件を解決できるだろうか。解決した。懲役1年半。私はハイタッチした。裁判のあと、私は松屋に行った。牛丼を食べた後、紅茶を飲んだ。春の訪れが近付いていた。